生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)(2022年12月開催)において採択された新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえ、我が国の生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本的な計画である生物多様性国家戦略が見直され、令和5年3月31日に「生物多様性国家戦略2023‐2030」が閣議決定されています。
ネイチャーポジティブ:自然再興の実現
生物多様性国家戦略2023-2030は、2050年ビジョン「自然と共生する社会」の達成に向け、2030年ミッション「2030年までに、『ネイチャーポジティブ:自然再興』を実現する。」を掲げています。「ネイチャーポジティブ:自然再興」とは「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」と定義されています。
現在の切迫した地球環境の悪化傾向を2030年までに反転させるには、これまでの自然環境保全の取組だけでは足りず、経済、社会、政治、技術全てにおける横断的な「社会変革」が必要であり、また、社会変革を進めていくうえで、カーボンニュートラル(炭素中立)、サーキュラーエコノミー(循環経済)といった課題の同時解決やこれらの施策の相互連携が重要課題となっています。ネイチャーポジティブは、自然を社会・経済の基盤と捉えた上で、今まで通りから脱却し社会・経済そのものの変革にアプローチをしていく道筋を示した言葉でもあるとしています。
ネイチャーポジティブの概念図

(出典:生物多様性国家戦略2023-2030パンフレット(環境省))
5つの基本戦略
2030年のネイチャーポジティブを実現するために、5つの基本戦略が掲げられ、基本戦略ごとに状態目標(あるべき姿)(全15個)と行動目標(なすべき行動)(全25個)が設定されています(目標一覧は別紙参照)。さらに、行動目標ごとに国の関連する具体的施策(367施策)が整理・掲載されています。
基本戦略1では自然を「守る」取組、基本戦略2では自然を「活かす」取組、基本戦略3ではネイチャーポジティブな経済、基本戦略4では一人一人の行動変容を進めることがそれぞれ位置付けられ、基本戦略5の基盤整備がこれらの取組を支える軸となっています。
(出典:生物多様性国家戦略2023-2030パンフレット(環境省))

(出典:生物多様性国家戦略2023-2030の概要(環境省))
後述する事業者に期待される役割も踏まえ、基本戦略1と3を取り上げると、その概要は以下のとおりです。
[基本戦略1;生態系の健全性の回復]

30by30目標と自然共生サイト
2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全する「30by30目標」が、ネイチャーポジティブ実現のための鍵となる目標の一つとなっています。国立公園等の保護地域(2023年1月時点で、陸地の20.5%、海洋の13.3%が保護地域に指定されている。)に加え、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM※)の設定が重要となります。OECMの設定を推進するために、民間の所有地等を「自然共生サイト」として環境大臣が認定する仕組みが2023年度からスタートしています。
※Other Effective area-based Conservation Measures
[基本戦略3;ネイチャーポジティブ経済の実現]

※環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)といった非財務情報を考慮する投融資
ネイチャーポジティブ経済への移行
ネイチャーポジティブ経済とは自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させることに資する経済であると定義されています。企業が価値創造プロセスにおいて自然資本の保全の概念を取り込み(ネイチャーポジティブ経営)、バリューチェーンにおける負荷の最小化と製品・サービスを通じた自然への貢献の最大化が図られ、そうした企業の取組を消費者や市場等が評価する社会へと変化することを通じ、自然への配慮や評価が組み込まれるとともに、行政や市民も含めた多様な主体による取組があいまって、資金の流れの変革等がなされた経済であるとされます。
ネイチャーポジティブ経済を促進するために、2023年4月に、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)等の国際的枠組の情報開示の方法や事例を掲載した「生物多様性民間参画ガイドライン第3版」が公表されました。また、2024年3月にネイチャーポジティブの取組を行うにあたり、企業が押さえるべき要素、新たに生まれるビジネス機会の具体例等を明らかにした「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が策定されています。
事業者に期待される役割と連携
ネイチャーポジティブの達成には、あらゆる主体が参加、連携、協力、行動することが必要であり、事業者には次のような役割や連携が期待されています。事業活動に生物多様性保全を組み込み、事業の各過程における負荷の最小化と技術、製品・サービスを通じた貢献の最大化を図ること、所有地等をOECM等として管理するなど、場の保全・再生にも貢献することがポイントとなると考えられます。


(出典:生物多様性国家戦略2023-2030パンフレット(環境省))
まとめ
✔生物多様性国家戦略2023-2030において、2030年ミッション「2030年までに、『ネイチャーポジティブ:自然再興』を実現する。」が位置付け。
✔生物多様性の損失を止め、反転させ、自然を回復軌道に乗せるネイチャーポジティブ実現のためには、今まで通りから脱却し社会・経済そのものの変革が必要。
✔事業者には、事業活動に生物多様性保全を組み込むこと、場の保全・再生にも貢献することが期待。
【関連情報】
ミヤマの取組
[場の保全]
30by30の達成やネイチャーポジティブの実現等、より幅広い環境課題に対し、「総合環境企業ミヤマ」として従来とは異なるアプローチで解決策を生み出す拠点として、花伝舎を整備しました。環境教室やオープンガーデンの開催を通じた地域の皆様との交流、当社社員のワーケーションプレイスとしても活用しています。Workcation Place花伝舎は、「自然共生サイト」として、2023年10月6日に正式認定を受けています。(事業紹介 Workcation Place花伝舎参照)
[希少種の保全]
絶滅危惧種の蝶ミヤマシジミの保全に向け、信州生物多様性ネットきずな及びミヤマシジミ研究会と「生物多様性保全パートナーシップ協定」を2015年8月に締結し、全社員でミヤマシジミ保護活動を進めてきました。2020年8月には、より有効的に保護活動を推進させていくため長野県にも当事者として参加していただき協定を再締結しました。ミヤマでは引き続き、ミヤマシジミ研究会、生物多様性ネットきずな、長野県と連携し、全社一丸となってミヤマシジミの保護活動と生物多様性の保全に取り組んで参ります。
ピジョンポストvol35 守る、はぐくむ。参照
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